遠藤研究室

新たな形質の発見-discovering morphological features

植物の形質characterは外部形態・内部構造・化学成分・生態と様々である。さらに、形態の形成過程(発生過程)や化学成分の分解・合成経路(代謝経路)、他の生物との関係(寄生・共生等)など、一連の時間経過における変化過程を形質として認識することも可能である。そして、これら形質こそ、選択圧をうけているものであり、環境や他の生物との関わりという観点からの考察を必要とする。形質は、新種の発見同様、これまでの研究者の観察結果により認識され、人類の知識として蓄積されるに至っているが、新たな観察方法の開発や観察対象を広げることにより、未知であった形質が続々と発見されている。

子葉紋電顕像

子葉紋

Endo, Y. & Ohashi, H. 1997. Cladistic analysis of phylogenetic relationships among tribes Cicereae, Trifolieae, and Vicieae (Leguminosae). American Journal of Bot. 84: 523-529.(ヒヨコマメ連、シャジクソウ連、ソラマメ連について33形質の分布を明らかにし、相互に比較。種子内の子葉背軸面に子葉紋cotyledon areoleを3連で確認した。子葉紋とは種子内の子葉背軸表面に認められる個々の表皮細胞がドーム状に隆起した領域<左図>。種類によって出現場所や子葉紋の面積が多様である。左下写真は、一定期間エタノールに浸けていたエンドウマメの珠皮を剥いたもの、つまり胚である。まるで鼻のように見える部分が幼根であり、その付け根に葉緑素がエタノールに溶け出ず、他の部分より色濃く見えるところがある。この部分が子葉紋の領域に相当する。その機能は不明であるが、珠皮側から胚への栄養分の通り道ではないかとの考えがある。)

子葉紋
Endo, Y. & Ohashi, H. 1998. The features of cotyledon areoles in Leguminosae and their systematic utility. American Journal of Bot. 85: 735-759. (マメ科植物のマメ亜科の大部分の種に子葉紋を確認。一方、ジャケツイバラ亜科やネムノキ亜科の種類では不明であり、マメ亜科の特徴と考えて良いと思われる。)
Endo, Y. & Ohashi, H. 1998. Variations in the anatomical features of cotyledon areoles in Leguminosae. J. Jpn. Bot. 73: 264-269. (子葉紋の解剖学的特徴の種間変異の解明と記載。細胞のサイズおよび鉄ヘマトキシリンによる染色性での変異を明らかにした。)
Endo, Y. & Ohashi, H. 1999. The developmental change of cell structures stained by iron-hematoxylin in the cotyledon areole of Leguminosae. J. Jpn. Bot. 74: 1-7. (子葉紋の機能解明のための同部位の発達過程の解剖学的な解析。発芽後、子葉の展開につれ子葉紋と周囲の組織との違いが不明となり、機能が失われることを提示。)
Endo, Y. & Ohashi, H. 1999. Morphological variation and distribution of the cotyledon areoles in Papillionoideae (Leguminosae) and their systematic utility. J. Jpn. Bot. 74: 296-306. (マメ亜科植物の子葉紋の形態および子葉上の出現位置の変異の解明。出現位置の違いおよび形態が属間の系統関係を反映していることを提示。)

ハエドクソウ温度傾性

主茎温度傾性

Endo, Y. & Miyauchi, T. 2006. Thermonasty of young main stems of Phryma leptostachya (Phrymaceae). Journal of Plant Res. 119: 449-457. (ハエドクソウ科ハエドクソウの芽生え後の若い主茎に温度傾性能力を発見。12℃で平伏し<左下図>、25℃で起立<左上図>する。温度傾性はチューリップの花弁の開閉現象に認められ、向軸側と背軸側の組織の成長差によることが知られている。 同様に、ハエドクソウにおいても主茎の向軸側と背軸側の組織の成長差により主茎が平伏したり起立したりするものと推定される。つまり、背軸側の成長量が向軸側の成長量に比べ小さい時には平伏し、大きい時には起立する。種子植物の主茎において温度傾性が認められたのは、本例が最初であると考えられる。その適応的な意義は不明であるが、早春の突然の降雪時に低温により主茎を平伏させることで主茎が折れ曲がることを防ぐなどの意義が想像される。)

オサバグサ

渦巻き状幼葉重畳法

Endo, Y., Saito, J., & Oono, K. 2011. Morphology and anatomy of winter bud of Pteridophyllum racemosum (Pteridophyllaceae). J. Jpn. Bot. 86: 294-302. (ケマンソウ科オサバグサの幼葉重畳法が渦巻き状であることを発見。一般に渦巻き状の幼葉重畳法<幼葉の折り畳まれ方>はシダ植物に認められ、種子植物では稀である。他に、モウセンゴケ科において類似の状態が認められている。なお、オサバグサは、その属名が示すように、シダ植物様の葉を持つことが特徴とされていたが、幼葉重畳法においても、シダ植物の葉との類似が示されたことになる。)

ソラマメ花粉電顕像

花粉外壁層構造

Endo, Y. & Ohashi, H. 1996. The pollen morphology of Vicia (Leguminosae). American Journal of Bot. 83: 955-960. (ソラマメ属の花粉外壁の層構造に、柱状になるものと顆粒状になるものを発見。顆粒状になる種群は花柱の特徴もまた特有であり、これらの特徴の共有から、単系統群を成すものと推定している。図はソラマメの花粉の走査型電顕像。層構造は顆粒状であった。)

茨城大学理学部生物科学コース
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